アナスタシア湖をあとにして、マリーは森をさらに進んで行きました。
道がでこぼこしていて、両手で大切に持っているお皿の上の苺ケーキが時折危なくなります。
「ティアレ姫は、このわたしの苺ケーキを見て、何て言うかしら。」
マリーは少し不安な気持ちになってきました。
あたりは真っ暗な深い森です。
少し先の大きな樹の根元で何かが白く光りました。
近づいてみると、それは、どこのお城の王様が落としていったのか、銀色のきれいな飾りのついた王冠だったのです。
「これはもしかしたら、ティアレ姫のパパのものじゃないかしら。」
マリーは苺ケーキのお皿を、大樹の根っこの固くテーブルみたいになったところにそっと置いて、その不思議な王冠を手にとりました。
「これがティアレ姫のパパのものかどうか、調べる方法があるわ。」
そうつぶやいてマリーは、大樹の葉っぱを一枚摘み、その葉っぱの上に王冠を翳してみました。
するとどうでしょう。
みるみるうちに木の葉は、キラキラのお砂糖で散りばめられたパイ菓子に変わったのです。
次にマリーは足元に転がっていた小石の上にその不思議な王冠を翳してみました。
たちまち小石はきれいなチョコレートボンボンに変わったのです。
「やっぱりこれは、プリンセス・ティアレのパパの王冠だわ。」
どんなものでもおいしくてきれいなかたちのお菓子に早変わりさせてしまう魔法の王冠。
これさえあれば、誰だって素晴らしいお菓子職人になれるでしょう。
マリーは、自分の苺ケーキをじっと見つめました。
「この王冠の力を借りれば・・・」
しかし少し考えてから首を横に振って、
「このままでいいわ。わたしはわたしの作ったケーキをティアレ姫に見てほしいんだもの。」
マリーは、王冠を右腕に通して抱え、左手には苺ケーキのお皿を乗せて、また歩き出しました。
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