マリーが勢いよくお店に入ると、菓子職人のヨージックおじさんは、ちょうどシュークリームの生地を天板の上にしぼっているところでした。
「やあ、マリー。そんなにきらきら目を輝かせて、何かいいことあったのかい?」
「こんにちは、ヨージックおじさん。昨日ね、ママといちごケーキを作ったの。 ・・・それ何? 何をしているの?」
「これはね、シュークリームの生地だよ。これを焼いてその上に色砂糖をふりかけるんだ。」
「わあ。」
マリーは思わずくるっと回りました。
お店に並んだたくさんのお菓子の色が、まるでミルクとコーヒーをまぜ合わせるように溶け合いました。
そしてもう次の瞬間にマリーは ”もうひとつの世界” である ”お菓子の国” に旅立っていたのです。
気がつくとマリーはお花畑の中心に立っていました。
しかしそれはただのお花ではありませんでした。
よく見るとそれは色とりどりのお砂糖がふりかけられたシュークリームのお花だったのです。
桃色や水色、すみれ色や白などの花々は、同じ色でも濃い色や薄い色、明るい色、少し暗めで落ち着いた色など、そのどれひとつとして同じ色はないのです。
「どれもみんな違うけれど、どれもみんな素敵だわ。」
そう思ったのはマリーだけではないようでした。
どこからともなく飛んできたたくさんの美しい蝶々たちが喧嘩をすることなくそれぞれひとつずつの花にとまりました。
風に揺れるシュークリームの花々と蝶々たちは、まるで恋のダンスをしているかのようです。
「わたしもいつか、恋をするのかしら。」
マリーは期待と不安が混じりあった不思議な気持ちになりました。
するとその時、その問いかけに答えるかのように、一羽だけ最後に飛んできた黄色の蝶々が、マリーの髪に静かにとまったのです。
マリーは幸せな気持ちが溢れ出しそうになりましたが、蝶々をびっくりさせないようにと思い、そっとほほ笑みました。
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